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2012/01/10更新

日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)

  • 原 研哉
  • 発刊:2011年10月
  • 総ページ数:256P

154分

5P

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デザインとは

デザインとは「欲望のエデュケーション」である。製品や環境は、人間の「欲望」という「土壌」からの「収穫物」である。良い製品や環境を生み出すにはよく肥えた土壌、すなわち高い欲望の水準を実現しなくてはならない。デザインとは、そのような欲望の根底に影響を与えるものである。
よく考えられたデザインに触れることによって覚醒が起こり、欲望に変化が生まれ、結果として消費のかたちや資源利用のかたち、暮らしのかたちが変わっていく。

欲望は勝手気ままに振る舞わせてはいけない。そこにけじめや始末を付けるのが文化であり、美意識である。デザインはそこで働かなければならない。

日本の美意識こそ資源である

日本では、掃除をする人も、工事をする人も、料理をする人も、すべて丁寧に篤実に仕事をしている。日本人の根底には「繊細」「丁寧」「緻密」「簡潔」といった価値観がある。これは海外では簡単に手に入らない価値観である。外国人は基本的に何かをよりよく丁寧にやろうという意識が希薄である。

ヨーロッパには職人気質が存在するが、日常の掃除などには及ぶ範囲ではない。ありふれた日常空間の始末をきちんとすることや、それを常識として社会全体で暗黙裡に共有すること。美意識とはそのような文化のありようではないか。

ものづくりに必要な資源とはこの「美意識」である。ものの作り手にも、生み出されたものを喜ぶ受け手にも共有される感受性があってこそ、ものはその文化の中で育まれ成長する。

日本は天然資源に恵まれないので、工業製品を生み出すために高度な「技術」を磨いてきたと言われる。戦後の高度経済成長は、そのような構図でものづくりを進めてきた成果であると認識している。
しかし、ここで言う「技術」とは、言い換えれば繊細、丁寧、緻密、簡潔にものづくりを遂行することであり、感覚資源が適切に作用した結果、獲得できた技の洗練ではないか。

この国を繁栄させてきた資源は、繊細、丁寧、緻密、簡潔にものや環境をしつらえる知恵であり感性である。こうした文化の根底で育まれてきた感覚資源はお金で買うことはできない価値である。
私たちは自らの文化が世界に貢献できる点を、感覚資源から見つめ直せば、これから世界が必要とするはずの、つつましさや合理性をバランスよく表現できる国としての自意識をたずさえて、未来に向かうことができる。

ものの生産においては、量より質へと、はっきり重心をシフトしていくことを考えなければならない。工業生産と同時に、恵まれた自然環境にも目を向け、サービスやホスピタリティの局面にも資源としての美意識を振り向けていくことが重要である。美意識を資源とすることで、経済文化の新しいステージに立つ事ができる。