カーンアカデミーの原点
そこで少し違うやり方を試してみた。「推測はなし。僕が望むのは2つに1つだ。自信に満ちた確かな答えを大声で叫ぶか、『わからない。もう1回やって』と言うか。一度でわからなくていい。」とナディアに言った。その後、授業も楽しくなり、ナディアは数学の再テストに合格した。
そうこうするうちに、彼女の弟たちも教えるようになり、親戚や友人たちに噂が伝わり、生徒の数は10人前後に。教え子たちは全員、あっという間に、本来の学年をはるかに超えたレベルの勉強をしていた。
増え続ける教え子たちにもっと効率よく対応するための方法を実験し出した頃、ある友人が言った。「なぜレッスンを記録してユーチューブに投稿しなかったんだ?そうすれば1人ひとりの生徒が好きな時に見られるじゃないか」
教育を変える
カーンアカデミーの指導方法は、実際に適用される事のなかった信頼に足る教育研究を実践に移したに過ぎない。コンピュータによる授業は、教室での貴重な時間を制約から解き放つ。一方的な講義モデルでは、生徒はぼんやり腰掛けているだけで、先生は誰が理解していて誰がわかっていないのか把握できない。生徒たちが事前に授業を受けていれば、教室で先生と生徒がやりとりする機会が生まれる。先生は、理解できていない生徒1人ひとりと接する時間をとり、機械的な講義をやめて、助言、激励、視点の提示に専念する事ができる。
カーンアカデミーの重要なコンセプトに「完全習得学習」がある。生徒はある学習内容を十分に理解した上で、もっと高度な内容に進むべきだという事だ。伝統的な教育モデルでは、学習に割り振られる時間が固定され、生徒たちの中身の理解度はバラバラとなる。しかし、インターネットにより、生徒は自分自身のリズムに合わせて、一番効率的なやり方で学ぶ事ができるようになった。
質の高い教育を、無料で、世界中のすべての人に提供する
ユーチューブにビデオレッスンを投稿しはじめてわかったのは、世界中の生徒たちがそれを使って教室以外でも学習するという事だった。2009年の初めには、毎日の利用者は何万人にものぼり、本業に集中しようと思っても、頭の中はカーンアカデミーの可能性で一杯だった。
2010年4月、予期せぬメールが届いた。カーンアカデミーに寄付をしたいとの申し出で、1万ドルの小切手が届いた。有名なベンチャーキャピタリストの奥さんだという事がわかった。彼女からのメッセージは、夢のような出来事の始まりだった。ビル・ゲイツが、カーンアカデミーのファンであることを話しているという。
ゲイツの秘書から、シアトルに招いてカーンアカデミーへの支援方法について相談したいと、メールと電話があった。ゲイツ財団から150万ドルの出資と400万ドルの資金が提供された。