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2013/10/18更新

ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス No.1207)

239分

2P

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空間的現実の非特権化

1人の人間にはいくつかの役割があり、それは時に矛盾する。例えば、教師という仕事には、生徒だけでなく、同僚や教育委員会といった個人・組織との関係の中で生じる期待や役割がある。こうした役割は「職場」「家庭」のような固定的な意味が付与された空間によって切り分けられてきた。

しかし、いまや現実空間はメディアを通じて複数の期待が寄せられる多孔的なものになっており、また同じ空間にいる人同士がどの場所の意味を共有せずに共在するという点で、空間的現実の非特権化が起きている。

ここで大きな問題が生じる。個人がどのような意味の空間を生きようと、物理空間は1つしかなく、私達はその物理空間で共に生きているという事だ。1つしかない物理空間に、複数の意味が流入してくるようになると、その空間をどのように意味付ければいいのかという点についてのポリティクスが発生する。目の前にいる他者とオンラインでつながっている他者のどちらを優先すべきか。

恋人や家族との関係であれば、二人でいる時には携帯電話を見ない、家庭の中では携帯電話は決められた場所に置くなどの形で、そうした政治が戦われる事になるだろう。ましてこれが公共空間となると、ステイクホルダーは多様化し、争点は複雑化する。私達は生きている情報空間の時代とは、そうしたポリティクスが争われる時代なのだ。

現実の多孔化の問題

情報通信技術が空間の意味を書き換える事で生じる現実の多孔化は、人々の間で空間の意味を共有する事を困難にしていく。この多孔化による分断は、単に個人の間のすれ違いだけではなく、社会全体にも深刻な亀裂を生んでいく。

その亀裂が生じる原因は、多孔化した社会を支える監視のシステムにある。監視は、流動性が上がり、隣の人間がどのような人であるかを確認できない社会において、自分自身のプライベートな領域を保ちながら社会的に認証されるために欠かせないシステムだ。しかしそこには、監視を通じた社会的振り分けによって、人々が知らず知らずのうちに分断され、格差につながるという問題も存在している。

ここで求められるのは、ある種の発想の転換だ。情報によって生じた分断を、再び別の情報で上書きし、統合する可能性について考えるべきなのだ。人々の間に人為的に共同性を立ち上げる事ができれば、多孔化した社会における分断状況を、再び統合へと導く事ができる。その方策は3つ。

①現実の多孔化を受け入れ、継承されるべき経験や知恵は、専門知として蓄積する
②公的な式典を可能な限り温存する
③風化していく空間を、あらためて儀礼化する(仮想現実で空間を上書きするなど)