『ウイルスバスター』などコンピュータ用のセキュリティ製品開発を行うグローバル企業トレンドマイクロの共同創業者が、起業からの歴史とどのように人材マネジメントを心がけているかを紹介している一冊。


■トレンドマイクロの誕生
トレンドマイクロを創業する前に、スティーブ・チャンは米国のアルファ・マイクロ・コンピュータ台湾販売代理店の社長を務め、赤字にあえぐ「映之旅MTV公司」という有線TVに投資し、自ら華夏インフォメーション社を起業して電機メーカーに製品を販売した。さらにソフトの不正コピーを防止する装置「T–Lock」を開発して、1987年にその技術を米国のレインボー・テクノロジー社に売却し、人生で初めてまとまった金額を手にした。

「このコンピュータ・ウイルスと呼ばれているものは、これからどんどん増えていくに違いないよ」とスティーブは言った。彼は台湾で優秀なソフト・エンジニアを招き、妹のエバと共にウイルス対策ソフトの研究開発という大事業に取り組むようになった。1988年、5000ドルを元手にトレンドマイクロ社を創業した。

すべての民族や国家には固有の文化がある。企業文化は国家や民族の文化の外にあり、より具体的で範囲が狭い文化である。簡単に言うと、企業の形成とは、一群の人々がある種の人為的問題を解決するために寄り集う事であり、共通の目標と達成すべき任務を持っている。かくして、それぞれの組織構造のもとで、一定の規律に基づきつつ、徐々に共通の思考の方向性や勤務態度が醸成され、無形のうちに各個人の情操と仕事のやり方に影響を及ぼす。「誰からも見られず、誰からも知られない状況にあっても、変わる事もなく保たれる勤務態度」というのが、企業文化の実践である。

企業は様々な問題を解決するためにそれぞれ異なる文化や気風を備えるようになる。これは善悪や好悪の問題ではなく、適合するかしないかという効率の問題である。

文化は行動を生み、様々な目的を達成する。文化は無形であるが、言葉では言い尽くせないような重さがある。私達がつかんで放さないものは「人間が根本」という原則に他ならない。重大な決定を下さなければならない時、立ち戻るのはいつも「人心、人間性、人情」というレベルであり、その地点に立って物事を考えるのである。

著者 ジェニー・チャン

1956年生まれ。トレンドマイクロ CCO (最高文化責任者) 1989年スティーブ・チャンとともにトレンドマイクロを設立。同社の発展、戦略、マネジメントに直接携わってきた。トレンド教育基金会の理事長兼CEO、華人心理治療研究発展基金会の理事長などを兼務している。